No.5 ハウスウォーミング特大号 Oct.19th.1997

BIGCAT NEWSは獸木野生が、友人・知人向けに発行している不定期近況報告ニュースレターです。
著作権上、転載や引用はできませんのでご注意ください。


みなさんお元気ですか?
10月に入ってもう日中は暑いくらいのオーストラリアはメルボルンよりお送りしております、BIGCAT NEWS第5号です。
前号よりだいーぶ間があいておりますが、気にしないでいきましょう。
前回、ここのところ3日くらい庭仕事をしている、とか書いていましたが、あのあとさらに庭仕事はつづいて、結局全部で10日くらいの突貫工事となってしまいました。
一日中庭仕事をしていた日ばかりじゃなかったのですが、汗をかき、力仕事をして夕方を迎え、涼しい風が吹きはじめると、えもいわれぬ満足感で、今までの人生の(というほど生きてもいませんが)疲れが全部癒されるような気さえします。
実は移住からこっち、わたしは爪があまり伸びなくなって、はじめは疲れてるのかな、と思っていたのですが、何かで爪はストレスがあるほど早く伸びると読んで、自分がストレスフリーの状態にあること、また移住地にオーストラリアを選んだ大きな理由は、知り合いが何人かいたから、つまり人間関係であって、自然が豊かな国だからではなかったのですが、動植物に囲まれた野性的な環境で暮らすことが、子供時代からの夢であったことに、今さらながら気が付いたのでした。

さて、9月の終わりにわたしの元英語教師で、こちらに来てから今の住居が決まるまで、わたしたちが住まわせてもらった家の持ち主、エイドリアン・ラニガンが、約3カ月の世界旅行からメルボルンに帰ってき、次いで、わたしとほぼ同時にアメリカへ引っ越して、二人とも新住所が決まってなかったためお互い行方不明になっていた、日本での元お隣さんのケリーちゃんとも、ようやくメールがつながって、「顔ぶれがそろった」という感じになってきました。
そしてわたし自身も2回の締め切りをクリアして、住居もだいぶ落ち着いてきたので(庭の工事も終わった!)、遅ればせながら「ハウスウォーミング・パーティ(家をあっためるパーティ。好きな名前です)」と呼ばれる引っ越しパーティをし、いろいろ一方的にお世話になりっぱなしだったみなさんをお招きすることにしました。
で、いい機会なので、そのお世話になったみなさんというのをご紹介しようと思います。

まずエイドリアン(ロッキーの彼女の名前だけど男です)ですが、彼はわたしがこっちに来るころまで、3年日本に住んでて、わたしのいた英語学校の教師だった期間は数カ月だったのですが、その後結構ご近所だったこともあり、特に移住問題に関して、日本にいたときからいろいろ助けてもらっていたのでした。ふたりともアマチュア占い師(?)なので、わたしたちは占い友だちでもあります。
エイドリアンはどこでも人気者で、とほうもなく顔が広く(通常の社交家が100人くらいの友だち持ちとすると、彼は1000人くらい友だちがいる)、器用で親切で頭も切れる「頼りになる奴」ですが、切れすぎてちょっとエキセントリックでもあり、仲間内では「けっこうマッド(おかしい)なとこもある。」と言われています。いきなり世界旅行に行くと言い出して、短い期間に何種類ものビザを取り、結局ビザを取らなかったほうの国々に行ったりするんですね。また彼の世界旅行中、アリスンとわたしは彼が「ザウルス」で送ってくるメールでその異動先をトレースしていたのですが、行動パターンがあまりにもフレキシブルなので、時々ついていけなくなるというか、今もうどこの国で何をしているかいいかげんわからなくなるといった有り様でした。
また彼は政治的には革新派なのですが、霊的レベルまでの根深い愛国者で、時々外国人の上「宗教と国家は人間が勝手に筋書きや線を描いて作ったもので、宇宙の真理と自然にクレーム(所有権の主張)はできない」と思っている世界主義のわたしとは微妙な緊張をかもしますが(補足/エイドリアンは宗教的には懐疑主義者・・・つまりアンチキリスト教徒です)、それでも彼が帰ってくると、諸問題の解決度はぐんとスピードアップし(例えば帰ってきた翌日にはずっと壊れていたわたしの車の右のウインカーをあっという間に直してくれ、「野生動物保護のボランティアをしたいんだけど」と言えば、「僕の友だち、オッポサム保護団体の会長だよ。」という答が返ってくる)、わたしのうちのベランダのブランコ(ベランダにブランコというのがわたしの憧れ)を作ってみようかとか、どこそこへみんなで行こうとか楽しい計画(全部は実現しないとしても)がいっぱいになるので、なかなか生活は活気づくのでした。

次にアリスン・スペンサーです。彼女はわたしがオーストラリアで最初に得た「掘り出し物」というべき人物です。今回の移住前に、わたしたちはオーストラリアと日本で2度会ってはいましたが、今回たまたま彼女がエイドリアン留守中の彼の家を借りていたために1カ月一緒に暮らす機会に恵まれたのでした。
前記の通りわたしはエイドリアンや、アリスンや、その他数人の知り合いがいたことの安心感のためにここに来たのですが、外国旅行などでも何でも自分ひとりで調べて、段どって、行動してきたので、他人の助けというのは、実はそれほど期待してなかったのです。しかし実際に来てみてアリスンから受けた心配りというのは、想像をはるかに越えたものでした。
といっても、彼女がわたしのために逐一何かを代行してくれたということではなく、彼女は初めて外国で暮らす人間が必要な情報やアドバイスを、その都度「自分だったら」という仮定で想像し、優先順位をたがえずに効率良く与え、また早く新天地になじめるように、行ってみておいた方がいい場所に連れだし、会っておいた方がいい人に会わせ、やってみておいたほうがいいことを経験する機会を与えてくれたのでした。
アリスンは、男っぽいくらいのさっぱりした、いわゆる竹を割ったような正義感の強い人物で、とてもとてもはっきり物を言って、エイドリアンに負けないくらい口が悪い(実はわたしの書いているアンジェラという気の強い女の子のキャラクターをべらんめえにしたみたいな人で、わたしは同じ「ア」で始まるために、アンジェラと呼びそうになって困る)のですが、わたしが驚いてしまうのはそんな彼女の、非常に女性らしいとも言える至れり尽くせりの想像力で、彼女が外国で暮らした経験もなく、日本にも数日しか行ったことがないことを考えると、わたしの置かれた状況に対するそれは、ますます驚くべきものに思えるのでした。
わたしはアリスンがすっかり好きになってしまい、他人と同居するのは離婚以来となる彼女との1カ月の共同生活もとても幸せなものだったので、今の住居に越してきた直後、「アリスンシック」のようなものに一時かかって、数日気分が悪かったくらいでした。

二本柱のエイドリアンとアリスンに続いてしょっぱなからお世話になったのが、デビッド・プリンスです。わたしが外国で生きていく上でまず必要だと考えていたのが、車です。なにしろ車がないと住居探しも始められません。しかしオーストラリアは、犯罪も少なく正直な商売人が多いのに、車がほとんど輸入車で高価なために、車のディーラーだけは正直とは限らない(ついでに車の盗難も多い)、という問題があったのでした。
そこでエイドリアンは、車購入の助っ人として、彼のカークラブ仲間の(エイドリアンはカーキチ)車業界人デビッドを推薦してくれたのでした。
デビッドはよいディーラーを選び、条件に合った車の目星をつけ、保険など手続きの一切を請け負ってくれました。わたしの車の選び方はかなりでたらめなもので(わたしは車のことはほんとになんにも知りません)、とにかく非常に急いでいたこともあって、ただサイズ的に扱いやすい(とにかくこっちの車は大きい)という理由で、デビッドおすすめのほうではない、古い小さいやつをその場で買ってしまったのですが、その車にはエンジンをスタートさせるのに、わたしの知らない「チョーク」という物がついていて、この操作に慣れるのが実は簡単ではなかったのでした。
そんなことも知らないわたしは、車を受け取った翌日さっそく、不動産業者と待ち合わせた物件に向かうため車を動かそうとしましたが、当然エンジンをスタートさせることができません。さて困った、というその時、すべてを予期していた出勤途中のデビッドが天使のごとく現れて助けてくれ、しかもデビッドはアホなわたしのために、翌日か翌々日にも同じことを繰り返してくれたのでした。そんなわけで、デビッドと奥さんと3人の子供は、早くから「パーティに呼ばなきゃいけない人!」の筆頭に入っていたのでした。

もうひとり、かなり一方的にお世話になっているのが、大家さんのピーターです。
ピーターはオーストラリアに40年ぐらい住んでいるギリシャ移民ですが、彼とのいきさつにはなかなか恥ずかしいエピソードがあります。
今の家に越してしばらくしたとき、わたしの命の綱だったふたつのガスヒーターが両方とも壊れてしまい、真っ青になって不動産屋に駆け込んだのでした。するとその日の夕方にピーターと、あまり英語を話さないイタリア系かギリシャ系のおじいさんがやってきて、ヒーターを両方とも直してくれたので、せっかちなわたしは、二人をてっきり不動産屋さんに頼まれて来た修理屋さんだと思ってしまいました。不動産屋を通して家を借りた場合、こちらでは大家さんに紹介されることはなく、家賃も不動産屋に直接払い、家の修理などは不動産屋が無料で行うのです。しかもピーターは、「僕はピーター。はす向かいの家に住んでるから、何か壊れたら不動産屋に電話するか、僕に直接言えば直しに来るよ。」とだけ言って、「僕が大家さん」とは一言も言いませんでした。
おまけに時々やって来て、芝刈りとかをやってくれるので、ますます彼を修理兼管理人と思い込んでしまったわたしは、ロールスクリーンのスプリングが馬鹿になったとか、シャワー室のドアが外れたとか、一見ささいだけれども日本と仕様が違うため手に負えない(いいわけすると、わたしは日本ではスタンドのスイッチ交換くらいまでの日曜大工は全部こなせてました)大工仕事をかなり頻繁に(これがまた、ものの壊れた日に限ってピーターにばったり会ったりする)頼んでいたのでした。
あまり頼みごとばかりしてるので、ギルティな気分になったわたしは、なにかしなくちゃと思って彼を今回のパーティに呼んだのですが、そのあと、つまりパーティ前の一週間、前記のように庭仕事をしていると、道行くご近所さんが「まあ、すっかりきれいになって。ピーターも喜ぶでしょうねえ。」とかいうのです。それでようやくこれは変だぞ、と思いはじめたわたしは(思えばピーターのうちははす向かいの「豪邸」なので、4カ月もそれを気に留めなかったのはさすがに鈍い?)、よくニュースレターにも登場しているお隣の老婦人ドロシーに尋ねて、ピーターの正体をつきとめたのでした。
アリスンは、このエピソードをとても気に入っていて、彼女がさらに面白がるのは「ピーターはまだ大家さんと気付かれたことには気付いていないはず。」ということで、わたしは逆に「ピーターはわたしに修理人と思われていたとは夢にも思っていない」はず、と期待しているのですが、パーティで「野生とはどーやって知りあったの?」とピーターに尋ねた彼女は、「ご近所なんだよ。」という返事を得て、ますます自説の正しさに確証を深めたようでした。

その他には、もちろんお隣の未亡人ドロシー、それからエイドリアンの妹のメリアンとその友だちのジョデイ(メリアンは郊外に住んでいるので、会った回数は少ないのですが、たまたまふたりともグリンピースのサポーターだったので、わたしとは環境友だちです。またメルは、エイドリアンと瓜二つなので、ケリーちゃんとわたしは、ふたりを「カーペンターズ」と呼んでいました)、それから今回はインド旅行寸前で来られませんでしたが、ニュースレターでもおなじみのジェニーとポールのカップルをお招きしました。
ジェニーはエイドリアンが「世界一の親友」と呼ぶ女医さんで、ポールはそのパートナーの陶芸家です。このふたりもアリスンと同じく、わたしがただ友だちの友だちだというだけで(もちろんエイドリアンが影で頼んでくれてたのでしょうが)、いろいろ気に掛けてくれたのでした。またポールは、ふたりとも制服アレルギー(ポールはスーツもきらいで、40過ぎの今までほぼジーンズで通している)の芸術家(?)で、どちらも一度離婚してひとり子供がいるなど共通点が多かったので、エイドリアンが帰ってくるまでは、わたしがアリスン次によく話した人物でした。

さて、こんなメンバーを招いてのパーティを、去る17日に行ったのですが、とにかくわたしはパーティというものをほとんど開いたことがない(記憶では日本で人を呼んでのクリスマス会みたいなのを一度やっただけ)ので、アリスンやエイドリアンにアドバイスはもらったものの、すべて手探りの作業で、開けてびっくりという感じでございました。
オーストラリアでは、一人で何もかも用意するとたいへんなので、招いたお客さんに「サラダ作って来て」とか「ワインが足りない」とか、場合によっては「お皿と椅子持ってきて!」とか頼んだりするというので、わたしもそうさせてもらいました。
メリアンとジョデイは、メリアンちの鶏が生んだ卵とミニバラの鉢植え、デビッド・プリンス一家はティータオル(日本で言う「ふきん」の、かわいい柄のやつで、このへんではカジュアルなプレゼントとして一般的です)、アリスンとエイドリアンは、園芸に狂ってるわたしのために、ハーブやトマトやスミレの苗を、エイドリアンお手製のおうち型のボックス(ハウスウォーミングだから・・・ちゃちゃっと作ったやつで、見てくれは悪いのですが、これはうれしかったですね)入れて、お祝いに持ってきてくれました。

わたしはこっちに来てから、材料の入手が面倒なのと(努力すれば大体の日本食材は買えますが)気候風土に味がミスマッチなのとで日本食はほとんど作っていませんが、日本食はメルボルンでは大人気で、生の魚やみそなんかもみんなけっこう好きなので、メニューはバイキング形式のおどんぶりにしました。
「さあみなさんご注目!」とかいって、好きな大きさのお茶わんに(うんと小さいのからどんぶりまであった・・・アリスンがどんぶりをさして、「このボールは何用?」と聞くので、「たくさん食べたい人用」と言ったら、日本食大好き人間のアリスンは「じゃあわたしはこれね。へへへ。」と言ってどんぶりを取った)、自分でごはんをよそって、これこれこんな具をのせて、ごまやのりのトッピングを乗せて、わさびとソイソースで食べましょう、とレッスンしてから、みんなでいただきました。
ハウスウォーミングのときは、みんなおうちを隅々まで見たいので、家中全部電気をつけて、間口にもろうそくを飾って、来た人順に家の中の全部の部屋をツアーします(トイレも・・・)。みんな何でも知りたいので、この家具は前の住人が残して行ったのをペイントしたとか、ここはこう改装したとか、これは日本から持ってきて、これはどこで買ったとかいちいち説明して、そのたびにみんな「わー」とか「ぎゃー」とか言うので、なかなかにぎやかですね。
前に書いた通り、わたしとあんまり会っていないエイドリアンの妹メリアンは、わたしの描いたものも見たことなかったので、本を見せてあげたのですが、以下は彼女がひとしきり「わー」とか「へー」とか言ったあとの会話です。「それで、あなた何年くらいこの本出してるの?」「13、4年かな?」「えー、じゃああなたさぞかしポピュラーでしょう?」「ううん、全然ポピュラーじゃないよ。」「何言ってんのよ、13、4年も書いてて、ポピュラーじゃなかったら、一体誰が読んでるっていうのよ?!」「一部の人。(Some people!)」
これには二人とも笑いましたねえ。そりゃあいくらわたしの本でも、Some people は読んでますよねえ。

さあ、長くなってしまいました。しかし間があいた分の穴埋めと言うことでトントンにしてね。楽しいシナリオ作業(全然書いてなかったわけではないのさ!)も、そろそろ終わりまして、恐怖の3カ月連続原稿執筆にこれより突入いたします。
北半球はこれから寒い!と思うので、みなさんお体に気をつけて、あったかくお過ごしください!手紙も書いてね。では、次回ニュースレター6号でお会いしましょう!

獸木野生


<BIGCAT NEWSは1号から7号まで、このホームページ公開以前に書かれています>


| 次のNEWS | 前のNEWS |
| Back |
| TOP PAGE | TOP PAGE/English |