●リクエスト小説
『EVERYBODY SINGIN' HAPPY SONG』05

 
 水は意外に澄んでいる。到底そんな池にも見えなかったのに、不思議なものだ。上方を見れば明るい光が見える。夜だった筈なのに・・・いや、とにかく上がらなければ。知らない星の知らない池でドザエモンになってる場合じゃないんだ。
 ざっば〜〜〜ん。
 オリヴィエとオスカーはほぼ同時に、水から上がった。
「あ〜〜〜〜〜酷い目に・・・あ・あ・あれ?」
「リュミエール!!!!」
 そこは聖地の庭園であった。二人の大男は小狭い噴水の中に立ち尽くし、目の前で暗い顔してへたりこむ、水の守護聖を見て叫んだ。
「オスカー!オリヴィエ!」
 リュミエールも思わず叫ぶ。この様子を、庭園で休日を満喫していた人々は呆然と見守っていた。はっきり言って守護聖の威厳も何もあったものではない。
 しかしそんなことはどうでもいい、無事に戻ってこれたのだ!!
「いやっほ〜〜〜!」
 オリヴィエとオスカーは、踊り出さんばかりに喜び合った。
「なんでそのようなところから・・・」
 いささか混乱しているリュミエール。
「知らないわよーう、もうこの際なんだって良いわよ!」
「戻れたんだな、俺達・・・。ありがとうリュミエールっ!!!」
 震えているのはずぶぬれだからじゃない、感激でだ!二人は思わずリュミエールの手を取る。彼もまた微笑んでいる。
「ああ・・・なんだかんだ言ってもやはり嬉しいものです、あなた方のご無事が。本当に良かった!!」
 なんだかんだ・・・やはり・・・・。やっぱ相当怒ってたな、コイツ。
 しかしまあ、そこはそれ。
「こちらもいろいろと努力していたのですが、めぼしい手だてもなく・・・ああ、本当に良かった、一時はどうなることかと。つまらない好奇心が招いた大事に私も思い詰めておりました・・・」
「ごめん、心配かけちゃったね、リュミちゃん。遠くでも聞こえたリュミちゃんの声だけが、支えだったよ」
「リュミエール、ある意味お前さんのお陰で帰れたとも言える・・・また逢えて嬉しいぜ」
 がしっ。
 3人は再びの邂逅に抱き合う。細かいことは忘れよう。今は、きっとある筈の3人の友情と信頼を確認し合おう。おお友よ!などとこっ恥ずかしく口にしそうなノリの3人であった。

「すぐにルヴァ様、ジュリアス様、クラヴィス様にお知らせせねば。あの方達もご心配ですから」
「・・すっかりバレてんだな・・・」
 オスカーの顔が暗くなる。しかし黙っているには大事すぎた。リュミエールを責めるわけにもいかない。
「じゃあ、速攻で着替えて無事を知らせに行こう・・・怒られるのもまた一興だよね」
 オリヴィエはそんなオスカーを励ますように言う。他の星で食い逃げ犯として追われるよりは、ジュリアスのお小言の方が良いに決まってる。


「本当にこのやり方で間違いは無いのか、ルヴァ!」
「おっかしいですね〜〜〜この本の通りにやっているんですけどもー」
「・・・・あとどのくらい、この状況に耐えれば良いのか・・・私は疲れた」
 コインの上に指を乗せて額を付き合わせている3人・・・当然ジュリアス、ルヴァ、クラヴィスである。オスカーとオリヴィエの捜索の為とはいえ、やはり大間抜けな姿。しかも、リュミエール達とは違い、こなたのコインはまんじりとも動く様子を見せないのであった。もう結構な時間が経っている。
「このコインが啓示を指し示すなど、やはり迷信ではないのか?」
「でも、リュミエールが言うには本当だと」
「約一名、こうまで落ちつきの足りぬ者がいれば、霊魂も出足が鈍るのも当然だ・・・」
「私のことを言っているのではあるまいなっ、クラヴィス!」
「・・・他に誰がいるというのだ・・・」
「そなたが妙な気を発しているから、寄りつけぬのだ!きっと!!」
「喧嘩はいけません〜〜〜。もしかしたらもう既に降霊に成功しているのかもしれません!試しに質問してみましょうかー」
 ルヴァが紙上のコインに問いを投げかける。
「あー、コックリさん?いらしているのならお返事をいただけるとありがたいのですがー。ちなみにどこらへんにいるとか教えてくださると〜・・・・」
 しばし、沈黙。ゆっくりとコインが動き出す。固唾を呑む守護聖達。
 イル・・・・ジュリアスノウシロ・・・・・
「なにっ!勝手に私の後ろを取るなど!」
 思わず立ち上がり、後ろを振り返る光の守護聖。しかしコインから指は離れてない。何とも律儀な彼なのだった。
 その姿を見ておかしそうに含み笑う闇の守護聖。
「ふっ、安心しろ、今コインを動かしたのは私だ・・・あまりにヒマだったのでな」
「貴っ様ーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!」

「・・・・なんか・・・・楽しそうね・・・」
「ああ、邪魔をしては申し訳ないほどだな」
「では・・・行きますか。何かもう私達のことなどお忘れのようでもあるし」
 盛り上がり、「コックリさん」にうち興じる3人を後目に、とっととクラヴィスの館を後にした、オスカー達であった。

「そういや、あの子にさよならも言えなかったねぇ」
 オリヴィエが雲一つ無い青空に向かって言った。
「ああ、今頃は思い残すこともとうとう無くなって、すがすがしく成仏してるだろ」
「ま、リュミちゃんの聖地からの願いも届いたっていうし、せいぜい心の中で祈っておくか、あの子の幸せな来世でも」
「そうだな」
「私の・・・願い?」
 二人の会話の意味がわからず、怪訝な表情のリュミエール。
「あの幽霊が私の願いをきいてくれたのですか?・・ああ、二人が聖地に無事戻れることを?」
 オスカーとオリヴィエは思わず顔を見合わせて笑う。
「ま、そこいらへんの詳しい話はゆっくりしよっ。今日は休日だもん、ワタシんちでお茶でも飲もう。今度こそ正しくヒマをつぶそうか!」
 3人は事の始まりであるオリヴィエの部屋へ向かう。そしてそこで気付く筈、テーブルの上に置かれたままの思い出深いコインと紙、そしてその紙切れのはしに小さく残された「THANK YOU!」の走り書きに。
 

(終)


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