リレー小説『踊るサクリア2』10 by 岸田

「オリヴィエ!ここにいましたか・・・大変です!!」
 陽光うららかな学園の敷地内の端、小高い丘の木の下にリュミエールがかけ込んでくる。
「ど〜したの、リュミちゃん。生徒総会は放課後で・・・」
 オリヴィエは眺めていたVOGUEを横に起き、慌てる彼を見やった。
「さっきの校内放送を聴きましたか?」
「放送?ここまではちょっと聞こえない・・・なんか緊急?」
「あの、例の・・・アンジェリーク、彼女が」
「え?あのコ、もう学校来てんの?」
「とにかく、聖堂へ!一緒に参りましょう!」
 オリヴィエは即座に立ち上がり、リュミエールとともに駆け出した。


 昼休みもあとわずかだというのに、聖堂は多くの生徒でいっぱいで既に騒乱に近い状態であった。
「皆さん!集まってくれてどうもありがとう!!!」
 アンジェリークの声が拡声器を通して聖堂に響きわたる。
「別にあなたの為に集まったんじゃないわよー」「一体オスカー先輩のなんなのよー」「訳を言え訳を〜」「なんか芸やれ〜〜」等々、壇上にいる、入学早々その名を学園中に轟かせた話題の人物に向かって口笛やら野次やら様々なものが飛び交う。
「今から説明しますからっ!皆さんどうか静まって!!!」
 アンジェリークの他に壇上端で同じく騒ぎを収めようと必死に叫んでいるもうひとり。ロザリアだった。いくらこの学園内始まって以来の才色兼備として、または中等部からの生徒会役員として一目置かれ、知らぬ者のいない彼女であっても、この状況には太刀打ちできない様子だ。騒ぎはなおも悪戯に大きくなるばかり。
「すみません、通してください!」
「悪い、ちょっとどいて!!」
 オリヴィエとリュミエールは、その人波のさなかを必死に壇上へと急いだ。やっとの思いで最前列までたどり着く。
「先輩!」
「ロザリア!ちょっとこれ、どういうことなのか説明して!」
 オリヴィエは下から声を投げた。彼女は青ざめた顔で言う。
「アンジェリークが、あ、彼女私の同級生なのですが、今回の騒動は自分の責任だ、ぜひ皆に釈明したいと・・・放送室から呼びかけたものなら思わぬ人数が集まってしまって・・・」
「そうですか、事情はわかりました、ロザリア。ここは私達に任せてください」
 オリヴィエとリュミエールはそこまで聞くと、次々とひらりと壇上へ身を踊らせた。聖堂内の怒号や野次が一気に黄色い歓声にかきけされた。オリヴィエは中央に歩み、アンジェリークから拡声器をぱっと奪い、言った。
「みんな、静かに!」
 嘘のように静まる聖堂。オリヴィエが見事な威圧力で騒ぎを一瞬にして治める間に、リュミエールはこの騒ぎの張本人に小声で話しかけた。
「アンジェリーク・・・自分の口から説明できますか?」
 金の髪の少女は、頷いた。
「はい、リュミエール先輩!私、頑張ります、お願いします、ぜひ!」
 リュミエールはオリヴィエに目配せする。それを合図に拡声器は彼女の手に戻された。アンジェリークは大きくひとつ深呼吸をして、口を開いた。
「皆さん、本当にごめんなさい!私のせいでこんなことになって。私が木から落ちたのは、木の枝が折れたせいでオスカー先輩のせいじゃありません!」
 ・・・そりゃそうだ・・・。その場にいる全員のココロの裏手ツッコミが飛んだが、そこはそれ。彼女は気にせず続ける。
「おまけに先輩のお陰で、こうしてケガひとつなくて。表彰状貰うならともかく、今噂になってるようなことなんて、みんなデマです、嘘っぱちです!オスカー先輩が責められるような理由なんてどこにもないのに・・・・!!そんなのおかしい!!」
 アンジェリークは感極まって、その瞳には涙が浮かぶ。
 そんな彼女に、非難の声を上げていた生徒たちも次第に心動かされていった。
「入学したばっかりの私が言うことじゃないのかもだけどっっ!!先輩は・・・オスカー先輩は、皆さんが知ってるとおりの、素敵な・・・素敵な人ですーーーーーーーーっっ!」
 一斉に上がる、拍手と歓声。
「ありがとう、みんな〜〜〜〜〜〜っっ!!」
 おーーーーーーーっっ!!
「合い言葉は?」
 ガッッッツ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
 聖堂は彼女の言葉に既にひとつになっている。うーん、まさに青春!!
 リュミエールとオリヴィエは、顔を見合わせ微笑んだ。オリヴィエはアンジェリークに再び歩み寄り、後は任せろとばかりに肩を叩き、そして生徒たちに向かう。
「・・・ってワケで、あの人騒がせなオハナシはこれで終わり。異議は?」
なぁーーーーーーーーーし!!!!
「いーお返事☆」

《続く》


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