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 (1章) ヤマゼンは博多在住のRocker。


クローンの鼻を顔の真ん中につけ、左目には海賊風アイパッチ。エッセンスとして、口髭と化粧。 白いパウダーを鼻の頭に1回だけパンッとはたく。これが彼の外出時の正装。

彼のブルージィでホットな歌声は、オーディエンスの心を確実につかむ魅力がある。公私ともに認める実力と才能は、長い間、博多の街で転がり続けている。

1970年代後半の博多の街はROCKに溢れていた。先輩のサンハウス、SHEENA&THE ROCKETSなどがメジャーデビューを果たしたころから自分の才能に気づいていた彼は、当然のごとくプロデビューすることが夢だった。本人はもちろん、彼を知る人は皆、この夢はすぐにかなうと思っていた筈だ。

しかし、皆の期待をよそに、博多NO.1の実力者・ヤマゼンに声をかけるプロダクションは皆無だった。
そのうち、後輩のROCKERS、THE MODS、アンジー、アクシデンツ…が次々とメジャーデビュー。優れたROCK BANDを送り出した博多の街は日本中から注目を浴び、新人のスカウトマンが街のあちこちに出没した。しかし、彼の部屋の電話のベルが鳴ることはなかった。

当の本人は次にデビューできるのは自分だと信じて、博多のライブハウスで熱狂的崇拝者を前に歌い続けていた。
そして、いつしか不思議な現象が起こっていた。
プロになった先輩、後輩たちが様々なメディアを通じて博多に残るヤマゼンのことを語る毎に、彼のスクラップブックの厚みだけが増し、日本一有名なアマチュアロッカーとしての地位を築いてしまったのだ。

でも彼の望みは、そんなことじゃない。

しかし、彼自身、そして周囲の人々も、その原因に気付いていた。

彼の持つインパクト。すくなくとも無関係ではあるまい。



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